何度でも言いますが、この人は鎖骨が折れています。

honkaku2003-07-24

ツール・ド・フランス

ピレネーも今日でお別れ。山岳もこのステージで終わりとなる。
そんな山の中で事件はおきた。

タイラー・ハミルトン。前USポスタルの選手で、現在はCSCというデンマークのチームに所属している選手。実は彼の鎖骨はツールの初めの落車によって折れてしまっている。
「骨折の痛みより、ツールをリタイヤする痛みの方がずっと辛いから」
ハミルトンはこう言って骨折後もツールを走り続けた。ハミルトンを含め、全てのツールの参加者の想いは同じだろう。

ただ、骨折の痛みは道路の振動と直接繋がっているので、彼は折れた鎖骨をテーピングで固定し、ハンドルバーには衝撃吸収のテープを巻いて、残りのツールを走ってきた。(写真でもはだけたジャージからテーピングの白い包帯の様なものが見えている)

さて、今日のコースは山岳最終日ということで、やはり山、山、山。一つ目の山を越えたところでいきなりアタックを仕掛け、そのまま逃げまくる。
逃げる。と一言で現わすのは簡単だが、集団から逃げるというのは大博打だ、それは選手の方が痛いほど理解しているはず。なのにハミルトンは一つ目の山岳から逃げまくった。二つ目の山岳は独りぼっちの逃走。見ている観客の方がはらはらしたであろう。だって、ハミルトンの表情がみるみる苦しそうに歪んで行くのを見たら、誰だってそう思う。二つ目の山を越え、下り。普通の選手が山を下るときは、下りだろうがどんどんペダルを踏む。信じられないテクニックでカーブを曲がる。しかし、この人は鎖骨折れてるんだよ!?

ハミルトンも下りでペダリング。信じられない。だって振動が直に鎖骨に響くでしょう?ネットの実況に張り付いてる人が口々に「ハミルトン、逃げて〜〜〜!」の大絶叫(文字だけど)
逃げて!逃げて! 二つ目の山岳を越えたあたりから、グルペットからまたアタックが掛かり、次々と選手が逃げを決めて行く。ああ、ハミルトンに追い付いてしまうのか?
しかし、驚異的な早さで後続選手を突き放していくハミルトン!差は全然詰まらない。むしろ開いていく?

山岳登りで苦しそうだった表情が、段々と和らいでいるのを感じたとき、あと15キロというポイントを通過し、あと10キロ、あと3キロと、ゴールがハミルトン目掛けて飛び込んできているみたいだった。後続選手も頑張ったが、なかなか差が詰まらなかった。

そして、ゴール直前のカーブを曲り、直線コースにやってきた。
隣にはリース監督の乗るチームカー。
とっさに監督に手を差し伸べ、固く握手をし、両の握りこぶしを唇に当てて、確実にゴールを決めた。

ゴールしてそのままチームのトラックに入り、スタッフと喜ぶ彼は本当に素敵だった。そのあとのインタビューに乱入してきたランス・アームストロングとも笑顔を交わし、そのままステージ優勝者として、表彰台に登っていったのでした。